0人が本棚に入れています
本棚に追加
第一話 夜行バス乗り場
一
「出発の時間まで、あと二十分しかないや」
ケンタは白い息をはきながら、夜行バスのけいじ板を見上げました。
肩から水とうをぶら下げて、足元には大きなナップサックが置いてあります。
まるで今から旅行に行くような格好です。夜おそい新宿駅のバス乗り場で、ケンタは寒さに震えながら、長きょりバスを待っていました。
たったひとりです。
お母さんとお父さんは、いっしょではありません。
実は、ひと月前にケンタのお母さんとお父さんは、交通事故にあって死んでしまったのです。ひとりぼっちになったケンタはまだ小学三年生。冬休みの間に引っ越して、これからは長野のカエデおばさんの家で暮らすことになりました。長野は、ケンタのお母さん、おばあさん、ひいおばあさんがずっと暮らしていた故郷でした。ケンタも赤ん坊の時、長野の家を訪れたことがありましたが、ほとんど覚えていません。
いつもはにぎやかな新宿駅のバス停も、日曜日の夜おそくではひっそりとしています。ときどき、冷たい風に吹かれて落ち葉が右から左へと。サァーと音を立てながら流れていきます。もうすぐ出発時間がせまっているのに、まだ長野行きのバスは到着していません。
最初のコメントを投稿しよう!