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美歌子は、無言で目を伏せ、椅子に腰を下ろした。
「私は構わないわ。ただ、この子が……」
まだ、胎内にいる子を愛おしむように、そっと腹部に手を添える。
「私といるコトで、嫌な思いをしたりするのは耐えられないけど、引き離されるのも同じくらい耐えられない」
雨月もラータも、沈黙していた。
美歌子は、テーブルに載せた手を握って、「ねえ」とカウンターにいる雨月に目を向ける。
「何でしょう」
「もし……報道されて、既に日本中に名前が知られてるとしたら、裁判前に海外に渡るのは、やっぱり難しいかな」
「……そうですね。大抵の無茶振りは通りますけど、現世の公的な法をねじ曲げる権限までは流石にありませんし……遺体と戸籍のでっち上げなら、前にやりましたけど」
「嘘!」
「本当ですよ」
「それが通るなら、私のケースとどう違うの?」
「そのケースの場合、依頼人は自分以外の人間を巻き込んだ自殺ではなかった、というコトでしょうか」
「ああ、そっかー……」
今度こそ気抜け声と共に、テーブルに突っ伏す。
「分かった。もお、いいわ。懲罰館でも何でも入るから、本当に死なせてちょうだい」
すると、雨月が苦笑混じりのような声で言った。
「まだ、考えるお時間ありますよ、と言っても無駄でしょうか?」
「無駄よ」
「何だか投げやりになっているようにも見えますよ。もう少し考えませんか?」
「ごめん。考えるも何も、昨日の時点で死ぬつもりだったんだもの。予定通りになるだけよ。この子に会えないのも……転生館とやらで、会えたらそれはまさに天の配剤ね」
クスリ、と自嘲の笑いが漏れる。
今度の沈黙は長かった。昨夜、冗談混じりに美歌子を和ませてくれたラータでさえ、何も言わない。
溜息を漏らした雨月は、やがて「分かりましたよ」と諦めたように答えた。
「では、そのように処理させていただきます」
「……ごめんね。辛い決断だわね」
ノロノロと上体を持ち上げると、いつしかすぐ傍に立っていた雨月が「いいえ」と首を振る。
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