Case.3-6 天の配剤

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「辛い決断から逃げられないコトも、俺に対する処罰の一環です。あなたが気にするコトじゃない」  血を吐くような声音で言われて、美歌子は一瞬、やはり向こうへ還ろうかとも思った。けれど、倫久と一乃の暴言や、現世に戻ったあとのことを思えば、結局この道しかない。  覚えず、少年にしか見えない目の前の相手を抱き締めそうになる衝動を、美歌子は懸命に堪えなければならなかった。 ***  それからすぐに、美歌子は冥界の懲罰館なる建物へ入れられた。  執行猶予は三年。その(かん)、この建物の中に軟禁状態とあれば、現世のそれと違って再犯の恐れだけは、百パーセントなかった。  懲罰、と言っても、本当に軟禁状態なだけで、特別することもなかった。退屈に耐えることが、罰だったのかも知れない。  ただ、入館当初に見せられた、現世での自分の葬式の風景だけは、堪えた。  三苫歌劇団へ就職してから、忙しくて、実家には年始や盆休みにしか帰っていなかった。  久し振りに顔を見た両親は泣いていたし、それぞれの家族と共に出席していた、兄も姉も同様だった。幼い姪や甥だけは、まだ『人の死』自体がよく理解できていないらしかったが。  美歌子にとっては、葬式の一部始終を延々と見せ続けられたことが、最大の罰だった。  ただ、葬儀は、本当に内輪で済ませたように見えた。歌劇団の仲間が、一人として出席していなかったのだ。  現世での、美歌子が起こした巻き込み自殺がどう報道されているか、美歌子は知らない。それを見せつけることも罰になるのではないかとは思ったが、必要以上の精神的ダメージを与えないのが、冥界のやり方のようだ。  しかし、正直なところ、懲罰館へ入ってすぐに見せられた自身の葬儀の映像が、随分長いこと脳内をループしていて、滅入りまくったなんてモノじゃなかった。  これで何か他にすることがあれば気も紛れただろう。しかし、『気を紛れさせない』ことも、どうやら罰の一環らしい。  前科は付かないが、罰が与えられない訳じゃない。それを、美歌子は身を持って感じていた。
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