Case.3-6 天の配剤

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*** 「――浅尾美歌子。本日、冥界暦二〇二一年十二月六日、執行猶予を終了、転生館へ移送する」  冥界の暦も現世と変わらないんだな、とぼんやりと思いながら、移送係の死神に、美歌子は頭を下げる。 「もう、天寿以外で戻ってくるなよ」  看守係に、美歌子は黙ったまま、曖昧に笑った。  そんなことは約束できない。次の世で、巡り合わせが悪ければ、繰り返すかも知れない。  転生館から送り出されれば、『浅尾美歌子』としての記憶も人格も消える。早く、何も考えずに済むようになりたい。  そう思いながら、移送係に付いて、彼の開けた扉をくぐる。  その先は、既に転生館のエントランスのようだった。 「浅尾さん」 「え……」  耳に覚えのある声がして、美歌子はそちらへ顔を振り向けた。  視線の先には、久し振りに見る美貌と、その肩先に乗った黒い猫がいる。 「……冴凪、くん」  三年経つのに、彼は少しも変わっていなかった。考えてみれば、当然だ。ここは冥界――あの世なのだから。  並足で歩いた美歌子は、彼の前で足を止めた。 「どうしたの、こんな所で。自分のお店は?」 「今日は臨休です。浅尾さんの移送の日だって、情報貰ったんで」 「誰に?」  しかし、雨月は人差し指を唇に当てて、ウィンクしただけだった。  内緒、ということだろう。 「分かった。それで、わざわざ会いに来てくれたの?」 「ええ。会わせたい人がいたので」 「会わせたい? 私に?」  誰だろう。特に心当たりはないが。  すると、雨月は自分の斜め後ろに視線を落とす。
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