Case.3-6 天の配剤

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「ほら、挨拶しな。お母さんだぞ」 「……お母、さん?」  まさか、と思いながら、彼の視線の先に目をやると、そこには小さな女の子がいた。年の頃は、三歳くらいだろうか。  雨月に手を引かれているものの、どこか警戒するように彼の後ろに隠れようとしている。 「ね、あの、まさかその子」 「たまたま、転生館で待つ内にこの年になっちゃったんです。折角だから、一目会うくらいはいいだろうってコトで」 「何をしてる、美歌子。あんなに会いたがっていただろう」  音もなく、床へ敷かれた絨毯の上へ飛び降りたラータも、そっと美歌子の脹ら脛を押す。  彼女に促され、美歌子は床へ膝を突いた。 「……いらっしゃい。名前は?」  すると、少女は小さく首を振った。 「ここにいれば、遅かれ早かれ現世に転生しなくちゃいけませんからね。名前は付いてないんです」 「そう……おいで?」  両手を差し出すと、少女はやはり探るように美歌子を見、次いで雨月を見上げる。  雨月が小さく頷くと、少女はようやく彼の手を離し、おずおずと美歌子の前に歩んだ。待ちきれずに、手を伸ばして抱き締める。 「ああ……!」  やっと会えた。だのに、すぐに別れが待っている。  本当は現世で、共に過ごしたかった。だが、それを今言っても仕方がない。これも、自分の決断の結果なのだから。  だが、経緯はともかく、会えたのだ。今はひとときでもこうしていたいとばかりに、美歌子は我が子の肩先に顔を埋めた。
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