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そこは地獄だった。
村のほとんどの家は焼け、死体がそこかしこに倒れている。
女たちの死体には凌辱された痕があった。中には、十に満たない童女も混じっている。
辺りには死体の脂が焼ける、どこか甘い臭いが漂っていた。
青年は、ただそこにひざまずいていた。
もう、二刻ほどになる。
目は焦点が合っていない。
その後ろで、孫兵衛は、じっと青年に視線を注いでいた。
やがて、青年がのろのろと孫兵衛を振り返る。
その目には、たしかにどす黒い炎が宿っていた。
「お侍様」
熱に浮かされたような声で、青年は言った。
「私に剣を教えてくださいますか」
「……よかろう」
どこか満足を覚えながら、孫兵衛はうなずいた。
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