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一ヶ月が過ぎる。
村を襲ったのが、この辺りを根城にしている山賊だというのは明白だった。
あれ以来、毎日、孫兵衛は青年に稽古をつけていた。
復讐の一念か。
剣の技量としてはまだまだだが、その気迫は、時に孫兵衛が気圧されるほどであった。
いまも、木刀を手に向かい合っているが、ともすれば打ち込まれそうになる。
「いやぁああああああっっっ!」
気声とともに、青年が木刀で打ちかかってきた。
孫兵衛はその斬撃をいなし、かわし、打ち払う。
青年が隙を見せれば、容赦なく打ち据えた。
だが、いくら打ち据えても、青年は木刀を握りしめて向かってくる。
「きえええええいっっっ!」
若い。
孫兵衛は自分が青年を嫉視しているのを感じていた。
これから、この青年はいくらでも強くなる。
それに比べ、自分はどうか。
すでに、剣客としての絶頂期は過ぎている。
後はもう、下り坂を転げ落ちるようなもの。
だが、この青年は……。
集中が乱れる。
気づくと、青年が木刀を振り上げ、孫兵衛の頭に振り下ろしてきた。
反射的に、木刀を振るう。
何かが砕けるような感覚が、木刀から腕に伝わってきた。
青年が倒れている。
息をしていないことは、一目で分かった。
孫兵衛は己が両手を見る。
若き命を、未来を摘み取ったその手を。
孫兵衛は、自分が射精していることに気づいた。
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