53人が本棚に入れています
本棚に追加
「生贄の所有権の放棄も認めます。される方はいないでしょう。その行為に意味はありませんから。放棄される方は回収の際お申し出ください。それから……」
一旦担任教師は口を閉じ、閉じた口で弧を描いた。
サキは一早くその様子に気付き、担任教師の視線の先へと自身の視線を重ねた。
音もなく立ち上がっていた少女は般若のような形相を浮かべ、静かに包丁を握りしめた手を翳していた。
写真からは想像もつかない程、少女の形相は憎しみに満ちていたのだ。
少女コハルはその名の通り麗らかな春の日差しのような笑みを写真では称えていた。サキにはそれが印象的だった。明るく優しそうな少女。自分とは正反対の、生を喜んで全うしている様な少女。ただの写真なのにそれがサキには眩しくて、そして妬ましいとさえ思えた。
そのコハルが今何をしているのかサキには理解できなかった。
一瞬の事だった。翳した手を勢いよく降ろし、あろうことか前に座るケンジを親の仇の如く刺そうと、殺そうとしている。
その包丁をどこから取り出したのかは分からない。ただ鈍く光るその刃は肉がよく切れそうだった。
最初のコメントを投稿しよう!