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「マミコ、それは三人で決めた事だよ」
「でも、昨日見たでしょ? 講堂で、リュウノスケの事も聞いたでしょ? 嘘を吐いたからって、あの時本当の事を言っていればリュウは死なずに済んだの?」
「……」
「怖かった。本当の事言わなくちゃいけないって分かってたのに、私達言えなかった」
「些細な事だよ。子どもの言う事なんて誰も信じないじゃないか」
「でも、私達が本当の事を言っていたらあの事件はあんな被害にならなかったかもしれない!」
「僕らが見たのは犯人が走り去った姿だけだ! 服が血まみれで目が血走ってて僕らは物陰に隠れた! 犯人は僕らを見ていたかもしれない! 報復されていたかもしれない! 本当の事を言って安全が保障される事はなかった! それを分かっていたから僕らは秘密にしたんじゃないか」
幼馴染の三人は子どもの頃、陽が暮れるまで共に遊んだ。
何の変哲もないいつもの日常。違ったのは殺人者を目にした事だけ。
今まで見たどんな物よりも恐ろしくおぞましかった。一瞬目が合った気がした。
翌日に警察官が彼等に話を聞きに来たが何も見ていないと嘘を吐いた。警察官は微笑んでありがとうと言って去って行った。小さな子どもの証言などはなから期待していなかった。
三人は子どもだからと自分自身に嘘を吐き続けた。あの日見た殺人者は連日連夜ニュースを騒がせ続けた。殺人者は掴まることはなく被害だけが拡大していった。
三人はどのように収束がついたのか覚えてはいない。ただ事件は解決した。解決して事件を忘れていた。
「ジョーカーが見つからなければ、あの日見たあの人と同じになるのね」
命は惜しい。死にたくなどない。その為に誰かの命を捧げる事になっても生き永らえたいのか、それはまだ分からないでいた。
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