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サキは自身に抱き付き震えているカナコに、大丈夫? と問いかけ、やんわりとその腕を外した。カナコは目に涙を浮かべながらそれでも笑顔で、ごめんね、とサキに謝った後自己紹介をしたのだ。サキもそれに応じるように自己紹介をし、二人でサキの机の中を覗いた。
覗いた先には鈍く光る片手斧が入っていた。カナコも先程まで座っていた座席の机の中を覗き込んだ。そこから出て来たのはノコギリだった。
初めに言い出したのはカナコだった。護身用のために持っておいた方がいいよね、と。そうしてサキも護身用のために斧を自室へと持ち込んだのだ。
斧など実物を見るのも初めてだった。正しい使い方なんてサキは知らない。だが、それを振りかざす事で人を傷つけることが出来るのは分かる。
鈍く光る切っ先に指を触れた。とても冷たい。触れた指からは薄らと血が滲んだ。サキは溜め息を吐き出し斧をテーブルの上に戻した。
頭の中がぐるぐるする。何かを考えようにも教室での出来事が頭から離れなかった。自分もあんな風に殺されるのか、あんな理不尽に。こんな理不尽に巻き込まれて訳の分からないまま死ぬのか。サキはそう思っていた。
ベッドに仰向けに寝転び左の手を天井に翳して、指先から出る血を眺めた。赤い、生きている。
翳した左手の袖をそっとずらし、サキは手首をなぞった。『1』そう手首には記されていた。
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