ちょっと大人の心音《ここね》のお風呂

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 薬剤師さんは湯船に浸かって、ふうーっと大きく息をついた。  「気持ちいいなあ。」  目をつむって、ひとり言を言う。  あんまり気持ちがよさそうだから、お風呂の妖精は抑えようとしても嬉しくなってしまう。  「入浴剤かあ……。心音ちゃん、可愛いなぁ。なんだか炭酸で、疲れも取れた気がするし。」  とまたひとり言を言って、クスクス笑う。  (ちぇっ。なんだこんなヤツ。)  お風呂の妖精は()ねて足をバタバタさせた。浴槽のお湯が跳ねて、薬剤師さんの胸にかかる。  (胸?)  薬剤師さんは背が高いので、足を少し伸ばすと、肩がお湯から出てしまうのだ。  お風呂の妖精は、お湯からはみ出している薬剤師さんの肩を触ってみた。ひんやり冷たい。  お風呂の妖精は薬剤師さんの肩に、パシャパシャとお湯をかけた。  「心音のお風呂が小さくて、気持ちよく暖まれなかったなんて思われたら、悔しいからな。」  お風呂の妖精は、パシャパシャお湯をかける。  「ああ、気持ちいいなあ。」  何も知らない薬剤師さんは(つぶや)く。  どうやら薬剤師さんはイイヤツらしい。そう認めるしかなかった。  お風呂の妖精の目から、ポロッと涙がこぼれた。お風呂の妖精は、お風呂のお湯に顔をバシャンとつっこんだ。  お風呂の妖精にだって、プライドがある。恋敵(こいがたき)の前で涙なんか流せない。たとえ薬剤師さんには、お風呂の妖精の姿が見えないのだとしても。  お風呂の妖精は息が続くまで、お湯から顔を上げなかった。顔をあげると、薬剤師さんをキリッとした顔で見上げた。  でも、でもな、これだけは言わせてもらう。  「心音は優しくていい子なんだ。泣かせないでやってくれよ。そりゃあオレの仕事が減っちゃうけど、そんなことはいいんだ。心音が楽しくお風呂に入ってくれればさ、その方がいいんだ。  お前のことはよく知らないけど、女を見る目だけは認めてやるぜ。」  お風呂の妖精は、薬剤師さんに話しかけた。そしてやっぱり、薬剤師さんの肩にお湯をパシャパシャとかけた。心音をもっと好きになって欲しかったから。      
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