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 霧雨の帳と底無しの谷に秘された、この世界の中心で。黒い少年らしきと白い青年らしきが向かい立ち、睨みあいを続けていた。彼の足元では宥めるようにくるくると、二匹の幼獣が駆け回っている。  七日七晩にわたる口論は、少年らしきの譲歩により終息した。 「わかったよ、キミの提案を受け入れよう。ただし、選者はボクね」 「いいでしょう」  仮初めとはいえ、ようやく戻ってきた平穏。少年らしきには黒い幼獣が、青年らしきには白い幼獣が、身をすり寄せて甘えだす。 「ではここに、祝福と呪いを」  青年らしきが蓮の葉を両手で捧げ持つと、交互に紡ぐ“言葉”の初めを少年らしきが口にした。 『かなう者に祝福を』 『あたわぬ者に呪いを』 『人の身ならざる絶望を』 『人の心あらざる希望を』 『僅かばかり時を巻き戻し』 『本質を曝け出せ』 『そして、ふたりは恋に落ちるんだ』  直後、傍の果樹にかかるエメラルドの虹が霧散し―――透明な液体が蓮葉の器を満たした。 「最後の付け足しは一体?」 「ハンデというかぁ、オ・マ・ケ?」  訝る青年らしきに、少年らしきはウインクしてみせる。 「折角だからもっと楽しめるよう、ハートをぐらんぐらんにして試すのさっ。大丈夫だよ、すべてが終わるときにちゃーんと元に戻すから」  少年らしきは完成した“試薬”を二本の瓶に充たすと、姿を変えた黒い幼獣に飛び乗った。 「んじゃ、ちょっくら行ってきますかぁ。人類滅亡をかけた試験の始まり、はじまり!」
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