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最近斗羽の様子がおかしい事に長谷川は何となく気づいていた。
遅刻や欠勤はないし、仕事は真面目にこなしている。
相変わらず言われた事に反抗などはしてこないし、端から見ればきっちり働いているようにみえる。
しかしどうもその表情に翳りがある気がするのだ。
休憩中など特に虚ろで、他のスタッフが居ても居なくてもどこかぼんやりと宙を眺めている。
かと思えば人の足音や表情に過敏に反応する時もあり、この前は顔見知りの客に背後から軽く肩をたたかれただけで悲鳴をあげて飛び上がり、逆に客を驚かせていた。
矢田の店に頑なに行こうとしない理由と何か関係があるのだろうか?
問いただす事は容易だが、好きな相手に嫌われるような真似はしたくない。
しかし好きな相手が何かに怯えるたり虚ろな姿を見てるのもつらい。
長谷川はこの事を考えるたびに二重の苦を味わっていた。
「まぁ、いいや。とにかく飯はちゃんと食えよ」
長谷川がそう言うと、斗羽は小さく頷いた。
今にも泣き出しそうな表情を見ていると思わず抱きしめてしまいたくなる。
「何があったんだ、何がお前にそんな顔をさせてるんだよ」
言いたい気持ちをぐっと堪えると、長谷川は斗羽に背を向けて歩きだした。
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