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「ありがとうございました」
「あぁ、また来るよ………おっと」
霧島と入れ換わるようにして入ってきたのは長谷川だった。
「…………すいません」
ぶつかった霧島にぶっきらぼうに謝りながら、長谷川は矢田の姿を捉えるとすぐに顔を歪めた。
ぶつかったのがよっぽど痛かったのか。
大丈夫かと声をかけようとするが、長谷川のただならぬ気迫に押されて思わず声をかけるのを躊躇った。
「……やっさん、どうなってるんすか」
低く唸るような声で長谷川が呟く。
「は?何の事だ?」
「…………斗羽とどうなってるんすか」
長谷川の言葉に一瞬戸惑う。
斗羽の名前が出てきた事は気になるが、長谷川に事情を話す必要はないはずだ。
それに、今はこの事について誰にも触れてほしくなかった。
受け止めなければいけないと思っているものの傷は想像以上に深く、人に話すまでの余裕がない。
今はまだこの話をして大人として振る舞う自信がないのだ。
「お前に関係ないだろ」
何とか平静を装い通常の声色で返事をしたはずだが、長谷川は納得していないのか表情を全く崩さない。
一体何なんだ?
矢田は、長谷川の斗羽に対する気持ちを知っている。
もしも、矢田と斗羽がうまくいっていない事が長谷川に知られているなら好都合だと捉えるのが普通で、こんなに怒りを露にする事はないだろう。
自分が長谷川なら、これはチャンスだと思うはずだ。
店は閉店間際だったがまだ数人客もいて、ただならぬ空気を漂わせる長谷川に客もバイトも何事かとこちらを見ている。
「悪い、ちょっと抜けるな」
矢田はそう言うと、長谷川を外に連れ出した。
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