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近くにある自動販売機で買ったスポーツドリンクのペットボトルを渡すが、長谷川は思いつめた表情のまま受け取るどころか微動だにしない。
いつも明朗快活で軽口も叩いてくるほどなのに、一体何があったのか。
「斗羽がどうした」
「あんた、斗羽が今何してるか知ってるんすか?」
押し黙っていた長谷川は唸るようにそう言うと、まるで噛みつかんばかりに矢田を睨み付けてきた。
「だから、斗羽がどうした」
「あいつ今、男とホテルにいるんすよ」
長谷川の言葉に一瞬瞠目するも、深くため息を吐く。
「お前な、いくらなんでもそれはストーカー行為だぞ。安心しろ、相手は知ってる奴だ。斗羽はその男を音成って呼んでたろ」
すると、長谷川は首を横に振った。
「鈴原って呼んでた…」
「鈴原………!?」
てっきり音成だと思っていた矢田は思わず驚いて聞き返してしまった。
「髪が黒くて身長も体格も斗羽くらいの男。ここにほくろがある」
左の下瞼を指差した長谷川を見て確信を得た矢田は、頭を殴られたような気分になった。
どうして要と斗羽が…
なんで…
同じ言葉がぐるぐると思考を巡る。
「最近よく仕事が終わるとそいつが迎えに来て、職場の最寄駅から反対の方向にあるラブホに入って行くんすよ。キスしてんのも見た。やっさん、何であんた知らないわけ?」
長谷川の言葉に目の前がまっ白になる。
知るわけない、そんなの。
要と斗羽が何度もホテルに行っているなんて。
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