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大きく見開かれた斗羽の眼に矢田の困惑した顔が映る。
全身の血の気がさあっと引いていくのを感じて、斗羽の身体は凍りついた。
矢田はつかつかと歩いてくると、斗羽の身体を支える要の胸ぐらを掴み乱暴に持ち上げた。
「お前、どういうつもりだ」
怒りを孕んだ低い声にびくりとなる。
要に対しての言葉は、同時に斗羽に対する言葉にも感じた。
「どういうつもりって?」
胸ぐらを掴まれて凄まれているにも関わらず、要は飄々として矢田を見上げている。
矢田の眉間に刻まれた皺が深くなり、眼光がますます鋭くなった。
突然要がクスクスと笑いだした。
自分より遥かに長身で激しい怒りのオーラを纏う相手に詰め寄られているにも関わらず、要はそれを恐ろしいとも何とも思っていないようだ。
「この子が誰とセックスしようと矢田にはもう関係ない事だろ?」
要の言葉に矢田の眉がピクリと上がる。
「斗羽くんに聞いたよ。女の子紹介されてるんだって?いいじゃない、お見合いでもデートでもしたら。それで普通に結婚して子どもつくって幸せな家庭を築いたらいい……」
要が言い終わらないうちに、彼の身体は路上の上を転がっていた。
「…………あっ」
思わず駆け寄ろうとすると、腕を掴まれ強引に引き寄せられる。
「本気で思ってるのか?」
鋭敏な眼差しに射抜かれて、斗羽はまるで蛇を前にした蛙のように固まった。
「本気で、俺が斗羽以外の誰かと幸せになれると思ってるのか?」
激情をぶつけられて、斗羽の身体はがくがくと震えだす。
怒りをぶつけてくる矢田の身体もまた小刻みに震えていた。
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