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不安を振り払うように背後にある首に腕を絡め、口づけを強請ろうとしてハッと気づく。
「どうしたの?」
首を傾げながらにっこりと微笑むその人物は、斗羽が思っていた相手ではなかった。
「どうして…」
身体がガクガクと震える。
憶えのある恐怖に足元を掬われたような感覚がした。
目元にかかるサラリとした黒髪の隙間から黒目がちな瞳と小さなホクロが覗く。
その瞳が三日月のような弧を描いて斗羽を見ていた。
「どうして鈴原さんが」
斗羽は瞠目しながら要を見つめた。
いつのまにか、周りの風景がキッチンからベッドルームに変わっている。
そこは、誰の家でもないあの場所。
要と何度も身体を重ねたあのホテルの一室だった。
斗羽の身体はベッドの上に転がされていて要の手が服を引き剥がそうとしている。
「やめ、やめてください!」
必死に抵抗しようとするが、身体が恐ろしく重たくて腕が全く上がらない。
腕だけでなく足も腰も頭も、身体中が鉛のように重たい。
そうこうしているうちに斗羽はあっという間に裸に剥かれてしまった。
「どうして…なんで…」
震える唇で何とか紡ぐと、斗羽を見下ろしていた要がフッと笑う。
「君が望んだ結果さ」
要の言葉に目を見張った。
「僕はこんなの望んでなんかいません」
「そうかな?不安に耐えきれず僕の誘惑に逃げ込んだ、そうじゃなかった?」
唇がわなわなと震える。
何も言えない自分が悔しくてたまらない。
斗羽は唇を噛みしめると要から目を逸らした。
「あの二人といると、自分が惨めな気になるのは仕方がない事さ。あいつらと俺たちは根本的に違うんだよ、何もかもがね」
要の指先がツツ…と頬を掠める。
背筋を何かが舐め上げていくような感覚に斗羽の肌は粟立った。
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