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「最初はいい。好きという気持ちだけで目の前はいっぱいだからね。でも次第に見えてくるんだよ、相手と自分の質の違いが。それはどうやったって埋まらない。だって根本的な所から違うんだから」
逃げなきゃ。
そう思うのに、身体の重みのせいで要の言葉をまともに聞いてしまう。
そんな事、自分が一番わかっているつもりだった。
わかっているからこそ、まともに向き合う事ができなかった。
ただでさえ毎日が不安で、いつか幸せな日が崩れてしまうんじゃないかと思っていたからだ。
彼らはサディストではあるが斗羽を蔑んだり、軽んじたりはしない。
ただ真っ直ぐに求め、愛そうと尽くしてくれている。
しかし、愛されれば愛されるほどその暗澹たる思いが心の闇を深くしていく。
斗羽は不安で仕方がなかった。
こんな自分に彼らから愛される資格があるのか。
こんな自分が彼らのそばにいてもいいのか。
要の言う事に何一つ間違いはない。
目を逸らしていたのは自分で、その不安や迷いに耐えきれず逃げ出したのも自分なのだ。
だけど後悔してももう遅い。
この身体は逃げる事を覚えてしまった。
辛ければ辛いほど、身体が疼き快楽に溺れたいと泣き叫ぶ。
快楽に陶酔している間は苦悩や苦痛から解放された気になるからだ。
今でもそうだ。
要が触れた場所から熱を持ち、腹を抉らんばかりに激しく掻き回して頭をいっぱいにしてほしくなる。
抗おうとしていた身体から力が抜け、シーツに深く沈みこんだ。
そんな斗羽を見下ろして要が「いい子だね」と笑う。
「君はこうして俺に抱かれてればいい。俺は君と一緒の側の人間だからね。二人で慰めあおう。きっともっと楽になれる」
要の言葉が毒のように身体に沁み渡る。
そうして、また深い闇に堕ちていった。
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