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次に目を覚ました斗羽の目の前にあったのは白い天井だった。
清潔感というよりは無機質な部屋。
生活感を感じられない何だか冷たい場所だ。
カーテンの閉じられた窓に目を向けると、そこは真っ暗で今が昼間ではない事がわかる。
そのカーテンの先を見ていたら突然寒気を感じた。
怖い夢を見ていた気がする。
内容は覚えていないけれど、真っ暗な深い場所に永遠に堕ちていくような、そんな夢を何度も何度も繰り返し見たような気がした。
誰かが何かを言っていた気がするが、それもあまりよく覚えていない。
思い出そうとすると、また寒気を感じて斗羽は思考を振り払うように辺りを見回した。
シーツの衣擦れの音をさせながら身体をゆっくり動かすと、左の腕にチクリとした違和感を感じる。
見ると腕に止められた細長い管が、ベッドの横にある液体の入った器具と繋がっていた。
「え……」
どうして点滴なんて…
わけがわからず起き上がろうとすると、その身体をベッドに戻された。
憶えのある動作に何故だか心臓が忙しなく鼓動を刻み始める。
まさか、そんなはずはない。
恐る恐る見上げると、そこには久しぶりに見る人物の顔があった。
「母、さん……?!」
斗羽と同じ黒目がちな瞳が斗羽を見た瞬間安堵したように潤む。
「まったく心配させて」
小言を呟くがその声色はひどく優しくて、懐かしくて。
ここはあの夢の中じゃない、そう確信した斗羽の身体からも強張りが解けていった。
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