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こんな平凡で何の取り柄もない自分が、どうしてこんな人たちと親しくなれたのか本当にわからない。
親しい友人と呼べる人は今までほとんどいなかったし、むしろ一人でいる事を自ら選んでいた。
その方がいざこざに巻き込まれなくてすむと思っていたからだ。
誰かと争うくらいなら、最初から何も求めたりしない方がいい。
求めたりしなければ誰かと何かを奪い合うこともなくなるから。
そうやって斗羽は今までずっと他人と距離を保って「事なかれ」を貫いてきたのだ。
それなのに、こんな見るからにハイスペックな人間と『友だち』になれた事が本当に信じられない。
自分の事なのに、まるで自分の事じゃないみたいだ。
結局何も思い出せないまま、再び頭は迷走しだす。
もう言わなければいけないんじゃないんだろうか。
曖昧に答えていてもいつかは知られてしまうのだ。
でもどう言えばいい?
記憶がないからわからない、そんな風に軽く言ってもいいのだろうか?
そう思い始めた時、突然ベッドがギシリと軋んだ。
「斗羽…」
顔をあげると、髪を結んだ男が斗羽のベッドに手をついてこちらを見つめていた。
思わずドキッとしてしまったのは整った容姿が近づいてきたせいでもあるが、ふわりと香った彼の香りのせいだ。
温もりのあるウッディーな香りにどこかで懐かしさを感じて斗羽は男をじっと見つめた。
何かを思い出す事はできないが、この香りは好きだと感じる。
男は険しい表情でこちらを見ていた。
細められた双眸と視線が絡むと、眉間に刻まれた皺がさらに深くなる。
「どうしても聞きたい事がある」
「矢田、やめろ」
後ろに立っていたもう一人が静かに制止を促す。
矢田と呼ばれた男と違い、背後にいる眼鏡をかけた男は終始難しい顔をしていた。
冷静で物静かそうだが、何か底知れない威圧的なものを感じる。
「黙ってろ、音成」
肩に置かれた音成の手を無造作に振り払うと、矢田はグイと斗羽につめよってきた。
ベッドがミシミシと音を立てて、矢田が迫ってくる。
憮然とした形相で迫られて、何だか急に怖くなった。
どうやら自分は彼を怒らせてしまったらしい。
けれど何がそうさせてしまったのかわからない。
「お前、何であんな場所にいた?」
低い声色で訊ねられて斗羽の喉がひくりと鳴る。
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