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「あの長谷川さん、そろそろ一人でも大丈夫ですよ」
自宅に続く道すがら、隣をぴったりと寄り添うようにして歩く長谷川を見上げた。
「なんで?」
「なんでって…やっぱり毎日大変じゃないですか。それにそろそろみんな不審に思いますよ?お、女の子ならまだしも、僕は男ですし…」
か弱い女性が相手なら、優しい彼氏が彼女の身の安全を心配して毎日送り迎えしているという風に映るだろう。
しかし、斗羽はどこからどうみても男だ。
さすがに、一ヶ月もシフトを合わせて、毎日毎日送り迎えまでされていたらそろそろ根も葉もない噂がたちそうな気がしていた。
長谷川はモテる。
彼を目当てに来てくれる女性の客はたくさんいるし、従業員の女性にだって頼りにされてモテている。
そんな長谷川が自分のせいで良からぬ噂をたてられたりするのは嫌だった。
「あのなぁ、何度も言ってるけど俺がやりたいからやってるの。別に迷惑とか大変とか全然思ってないから」
これまで何度も言われた言葉で突き返される。
しかし、今日こそしっかり断ろうと思っていた斗羽は立ち止まった。
「でも、やっぱり長谷川さんを毎日付き合わせるわけにはいきませんよ…今日だって女の子の誘い断ってたじゃないですか」
営業中、若い女の子二人に仕事が終わってから遊びに行かないかと誘われているのをたまたま見かけたのだ。
長谷川は溜め息を吐くと、頭を掻いた。
「別にお前のせいで断ったわけじゃないから気にすんな」
「でも、僕のせいで…変な噂が立ったり、それで長谷川さんが白い目で見られたりしたら…」
「だからそんな事気にすんなって言ってるだろ!」
暗い路地に長谷川の苛立つような声色が響く。
突然腕を強く掴まれて斗羽はハッとして顔を上げた。
眉間に皺を寄せた長谷川が不機嫌さを露わにして斗羽を見下ろしている。
どこかで、こんな事があったような気がして斗羽は一瞬思考を巡らせた。
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