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「久しぶりだね。思ったより元気そうだ」
男はそう言うとニコリと微笑んできた。
一見どこにでもいるような容姿の男だったが、サラサラと額で揺れる髪の隙間から覗く底の深い真っ黒な瞳とその下にあるホクロに目を惹かれる。
どこかで会ったような気はするが、やはり記憶の中には何も映らない。
それをどうやって説明しようか考えあぐねていると、男はフッと笑った。
「知ってるよ、記憶がないんだってね」
傘の石突きをトントンとアスファルトに突きながら男がゆっくりと近づいてくる。
「…はい、そうなんです」
「そうか…まぁ仕方ないか。君はそれほど追い詰められていたからね」
男は斗羽のすぐ目の前でピタリと止まった。
自分と同じくらいの身長、体躯。
ここ最近は、ずば抜けた容姿の長谷川や矢田と一緒だったからか、何だか少し親近感がわく。
この人は自分の友人だったのだろうか?
伺うようにじっと見ていると、男の指がそっと頬に触れてきた。
触れられたことよりもその指先が思っていた以上に冷たくて驚いた。
「君を追い詰めたのは俺だ」
「……え?」
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