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彼は優しい。
記憶のある限りで今まで出会った人の中で一番と言っていいくらいだ。
けれどその優しさの中に時々彼の怯えのようなものが見えるときがある。
腫れ物に触るような、こちらを窺うような何か悩んでいるような。
矢田が何に悩んで迷っているのかわからない。
そしてはっきりと訊ねる勇気もない。
もしかしたら、矢田の斗羽に対する気持ちが失われてきてる状態なのではないかと思うと怖くて聞けないのだ。
記憶がなくなっても矢田はそのままでいいと言ってくれた。
初めからやり直せばいいと言ってくれた。
しかし、実際はもしかしたら記憶のない斗羽にいい加減うんざりしているのかもしれない。
二人で築いた思い出や何もかもをすっかり忘れてしまっているのだから。
冷たくできないのは矢田が優しいからなのか、それとも一度言い出したことを今更取り消せないと思っているからか。
いくらセックスで肉体を繋げ欲求を満たしても心の穴はどんどん大きくなっていってしまう。
矢田という恋人で満たされていたはずの穴が。
「ほら、終わったぞ」
中に放ったものを掻き出し、丁寧に後処理をしてくれた矢田は斗羽の身体を起こすと服を着せはじめた。
甲斐甲斐しく世話を焼くその顔をじっと見つめていると、視線に気づいた矢田がちらりと一度だけ斗羽を見る。
「どうした?」
口元に笑みだけ浮かべて、けれどその瞳は決して斗羽を捉えてくれてはいない。
やっぱり。
急にとてつもない不安に襲われて、斗羽は矢田に抱きついた。
勢いよく抱きついてしまったせいか矢田の身体を押し倒すような体勢になっている。
「斗羽?…どうした…」
矢田は押し返すこともせず斗羽の髪をくしゃくしゃと掻き混ぜながら優しく背中をさすってくれた。
斗羽は何も答えず身体をずらすと矢田の足の間に陣取った。
スウエットを引き摺り下ろすと、先ほどまで斗羽を穿っていたものを取り出す。
そこはすっかり柔らかくなってしまっていたが、斗羽は構わずに顔を寄せると横向きにしゃぶりついた。
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