4783人が本棚に入れています
本棚に追加
可哀想な事をしてしまった。
心の中で「ごめん」と謝る。
何か悩みがあると、こうして無心で掃除をしてしまうのが癖なのだが今日は本当にやり過ぎていた。
朝から家中の窓ガラスと風呂場を磨き上げるとそれでも足らずに庭の草むしりまでしているのだから。
しかもやり始めてから一度も休憩していない。
これじゃあ、花と雑草の区別もつかないはずだ。
「そういえば最近矢田さん見かけないけど元気なのかしら?」
中西の質問に斗羽の表情が凍りつく。
今一番頭を悩ませている相手の名前に明らかに動揺してしまった。
しかし中西はそんな斗羽の表情なんて気にする気配もなく、辺りをキョロキョロ見回すと無言で斗羽を手招をしてくる。
「あのね…」
近くに来た斗羽に中西はもう一度辺りを窺うと小声で語り出した。
「少し前にほら、紹介したじゃない?私の知り合いの娘さんの小野洸ちゃん。おばさんね、あの後てっきり二人はうまくいってるかと思ってたんだけどこの間洸ちゃんのお母さんに聞いてびっくり。洸ちゃん、矢田さんにお付き合いをお断りされちゃったらしいのよ」
中西は小声で話しながらも興奮を隠しきれないといった表情で目を見開いた。
「矢田さん、心に決めた人がいるんですって」
「え…」
頭を金槌で殴られた後、雷に打たれたような衝撃が走る。
「斗羽くんお友達じゃない?ねぇ、そのお相手のお嬢さんどんな子か知ってる?」
最初のコメントを投稿しよう!