プロローグ

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兄は優秀だった。 音成家の長男である春仁(はるひと)は成績、品格、見た目、資質全てにおいて完璧で学校でも近所でも一目おかれる存在だった。 人に優しく穏和な春仁は、周りはもちろん秋人自身にも優しく接してくれていた。 仕事で留守にしがちな両親の代わりに兄は幼い弟を甲斐甲斐しく世話をし、可愛がり甘やかして時に叱ってくれた。 兄は母であり父のような存在であった。 秋人(あきと)はそんな兄の春仁が自慢だった。 憧れていた。 いつか兄のようになりたい。 兄のように完璧な人間になりたい。 ずっとそう思っていた。 そんな兄が変わったのはいつだったか… 気がつくと、怖いくらい鋭い眼差しで窓の外をじっと見つめていたり、ふとした表情に底の知れない闇のようなものを感じさせるようになっていた。
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