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自宅の前に着くと鞄から鍵を取り出す。
ふと、隣の邸宅へ目をやった。
暗い路地にぼんやりと浮かぶ人影に気づく。
そこにいないはずの人物を一瞬思い浮かべ胸が高鳴ったが、すぐにそれは違うとわかった。
音成はあんなに背が低くない。
だいたい、自分の家の前のインターフォンの前に家主がいるはずない。
傘をさしているせいで顔はよく見えないが、スーツ姿と体格からして男だというのはわかった。
仕事関係の人間なら、会社を直接訪ねるだろうし音成は海外出張で留守だと知っているだろう。
よく見るとスーツの足元はずぶ濡れで、膝から下は色が変わっている。
一体どのくらいの間ここにいたのだろう。
電話やメールをする気配もなく、家主のいない邸宅の前で動かない男の姿になぜか胸がざわざわとする。
怖い…
何となくそう感じて斗羽は急いで鍵を開けると家へ飛び込んだ。
名前も素性も知らないけれど、なぜかその男に近づいてはいけないような気がした。
ざわざわとする胸をギュッと掴む。
大丈夫、気のせいだ。
きっと寂しすぎて色んな事が不安に感じるだけだ。
二人が帰ってくれば不安も消えるだろう。
けれど胸のざわつきはなかなか消えず、欲求不満と寂しさも合わさって結局この日も眠れない夜を過ごす羽目になった。
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