メランコリーなマゾヒスト

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途端にリビングが甘い空気に包まれる。 そういうつもりじゃなかったんだけど… 「斗羽?」 顎を掬われ、真っ直ぐな瞳に見つめらると何と答えていいかわからなくなり、狼狽えてしまう。 「あの…えっと…」 今がチャンスだ。あの人が誰なのかちゃんとはっきりと訊けばいい。 それなのに、すんでのところで言葉に詰まってしまう。 あの日事情も何も話されずに置き去りにされたのは、斗羽が部外者であって首を突っ込むべきじゃないと思われているからだろう。 それをわざわざ訊いてどうしたいんだと言われてもたぶん返答に困ると思う。 ぐだぐだうだうだ人の過去に首を突っ込んで煩わしい奴だと思われてしまうかもれない。 もしかしたらそれが理由になって斗羽の事を嫌いになるかもしれない。 そう思うと、正直に自分の思いを伝えるのが酷く恐くなってしまった。 そんな思いをするくらいなら隠し事の一つや二つされたって自分が目を瞑ればいいだけの話じゃないか。 そうだ。今までだってそうやって生きてきた。 彼らに秘密があったとしても、斗羽の元を離れなければそれで十分だ。 喉まででかかっていたものをぐっと飲み込むと、返事の代わりにその逞しい胸板に額をつけた。 優しい矢田の香りに包まれるとやっぱりホッとする。 今更この温もりを手放すなんてもうできるわけないんだと改めて思った。 寝室のベッドの上で、斗羽はぼんやりと天井を見つめていた。 矢田の指先が感じる場所に触れるたびじわじわと熱が生まれ、唇からは勝手に甘ったるい声が出ていく。 薄い胸を滑る手が硬くなった粒を捉え優しく転がされると、腰骨の奥にじわじわとした熱が生まれ脚の間のものがぐっと張りつめた。 もやもやとしたものを抱えながらも、こうして簡単に快楽にほだされてしまうのだから我ながらゲンキンな奴だと思ってしまう。
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