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わかっている、何も言わなくていい。
そう言ってるかのような手の温もりと優しい笑顔に胸が熱くなる。
自分は何て事をしてしまったんだろう。
昏い気持ちを持ったばかりか、恋人である矢田を撥ねつけてあげく謝らせてしまった。
泣き出してしまいそうになるのを堪えながら斗羽は俯く事しかできなかった。
午後からは居酒屋の仕込みがあるからと言って矢田は帰っていった。
一人になるとますます罪悪感に苛まれ、良からぬ事に考えを張り巡らせてしまう。
嫌われただろうか?
もうこのまま矢田が会いに来てくれないんじゃないか。
そんな思いが胸をチクチクと刺してくる。
矢田だけじゃない、音成だってもしかしたらあの要という男と恋仲になっているかもしれない。
いや、斗羽と恋人になるずっと前からそういう仲だとしたら…。
親しげに名前を呼びあい、絡み合う音成と自分ではないシルエットを想像する。
そこに矢田が加わると、ますます気持ちが沈んでいくのだった。
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