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あれから、矢田から何度も誘いの電話やメールが届いていた。
しかし、斗羽の気持ちは日が経っても晴れず落ち込んだままだった。
こんな気持ちのまま矢田の誘いを受ければまたこの間のような事になりかねない。
これ以上矢田を傷つけたくない一心で、誘いは何かに理由をつけて断っていた。
時々訪ねてくる中西がさりげなく矢田の事を聞き出そうとしてくるのも矢田への返事を鈍らせている理由の一つでもあった。
相変わらず音成からは何の連絡もない。
仕事がたて込んでいるのだから仕方ないとは思っていても、あの要という男に気持ちが揺らいでいるのだろうかとついつい考えてしまう。
重い足を引摺りながら電車を降りると、家路を急ぐ人混みの中をのろのろと歩き出す。
夕食はどうしようかと考えたが作る気どころか食べる気にもならない。
そのままぼんやりと家路に向かっていると、角を曲がったところで誰かに腕を掴まれた。
振り返ると、眉間に皺を寄せた仄暗い顔が斗羽を見据えていた。
「……矢田さん…」
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