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いつもと違う矢田の雰囲気にただならぬものを感じ、思わず身を引こうとするとそれより強い力で引き寄せられた。
夜の住宅街で人通りは少ないとはいえ、まだ帰宅途中の人が通るかもしれない。
そんな場所で男同士がこんな至近距離でいるのは不自然だ。
「…誰かに見られるかもしれないから」
掴まれた腕を必死で引き剥がそうとすると、そのまま両腕を引かれ堅いものに背中を押し付けられた。
いつの間にか背後にはコンクリートの壁があり、両側からは矢田の腕に挟まれていた。
逃げ道を塞がれ、おずおずと見上げる。
両手を壁に付き、斗羽を見据える矢田の鋭い眼差しに怒りが滲んでいるのがわかった。
「何で逃げる?」
「ひ…人に見られたら…」
「違うっ!」
空気を切り裂くような声に身体がビクリとなる。
唖然としていると、矢田がグッと距離を詰めてきた。
「斗羽は、何もわかってない」
怒りを孕んだ矢田の低い声が静かな路地に響く。
何に対して咎められているのかわからず斗羽は困惑した表現で矢田を見上げた。
「あらぁ~?矢田さんと斗羽君じゃない?こんな所でどうしたの」
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