嘘つきなマゾヒスト

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矢田の言葉に愕然とした。 全身の血の気がサーッと引いていくような感覚がして身体がどんどん冷たくなっていく。 喉の奥がつんとして、胸に何かが詰まったかのように息苦しくなる。 矢田の言葉を理解しようとすればするほど真っ暗な谷底へ突き落とされたような絶望的な気持ちになった。 既に斗羽への興味をなくした尾野は、矢田の会話に一喜一憂の表情をしながら楽しそうに笑っている。 穏やかで男ぶりのいい顔立ちの矢田と、利発で明朗な雰囲気を持つ美人な尾野。 美男美女とは正にこの二人に相応しい言葉だと思った。 並んで立つ二人を見ていると、釣り合いがいい事がよくわかる。 と同時に自分への酷い劣等感に襲われる。 尾野と自分は何もかもが違いすぎる。 尾野の事は何も知らないが、きっとこんな劣等感だらけでことなかれ主義の地味で暗い性格なんかじゃないはずだ。 矢田には斗羽より尾野のような女性が相応しい。 突きつけられた現実に頭を鈍器で殴られたような気持ちになった。 斗羽はゆっくり後ずさると何も言わずその場から離れ、足早に路地を曲がった。 自宅とは反対方向だが、そんな事はもうどうでもよかった。 あの場所から、あの二人から離れられるならどこでもいい。 一秒でも早く遠くへ行きたかった。 それでも二人の姿は頭にこびりついていつまでも離れない。 仲睦まじい二人の間に、斗羽とは成し得る事ができない未来までもが見えてしまったのだ。 さっき降りてきたばかりの駅に着くと、見計らったかのように高級SUV車から矢田が出てきた。 追いかけてきてくれた事が嬉しい反面、どう彼と接していいかわからず斗羽は俯いた。 「まだ話が終わってないだろ?」 「話すことなんか……何もないじゃないですか」 自分でも可愛くない態度に嫌気がさしてしまう。 矢田の眉がピクリと上がる気配がしたが斗羽は構わずに続けた。 「僕なんかに構っていたら尾野さんと仲良くなれませんよ」 矢田の顔がみるみるうちに嫌悪に歪んでいく。 怒らせた。
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