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込み上げてくる嗚咽を何とか飲み下していると部屋の扉が開いた。
ハッとして入り口を見ると、矢田が立っていた。
暗い表情でじっと見つめられると、さっきの続きをされてしまうんじゃないかという恐怖に身体ががくがくと震えだす。
しかし矢田はふっと視線を逸らすとベッドの脇にあるサイドテーブルに持っていたものを置いた。
恐る恐る見ると、それはトレイに乗せられた土鍋だった。
器具や淫具ではない事にホッと胸を撫で下ろす。
一人前用の小さな土鍋の蓋を開けると湯気がふわりと舞い上がり、辺り一面に食欲をそそる香りが広がる。
(雑炊…)
出汁のきいた矢田の作る雑炊は斗羽の好きなメニューの一つだ。
それを知って作ってきてくれたのだろうか。
矢田はそれを器に移すと、れんげと一緒に斗羽に差し出してきた。
「食べろ」
戸惑いながらも受け取ると、れんげで掬った雑炊をひと口、口に運ぶ。
散々泣かされたせいで体力を消耗していたのか、ほどよい塩加減が身体に沁み渡る。
「…………悪かった」
唐突に切り出されて、雑炊を掬うれんげが止まった。
「お前の気持ちを確かめたくて…一方的だった」
ベッドの端に座った矢田が背中を向けたまま静かに話し出す。
「どうして俺を避けるのか理由を教えてくれないか」
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