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斗羽は言葉を詰まらせると顔を伏せて唇を噛みしめた。
また…嘘をつかなくてはいけない。
そう思うと胸が抉られるような気持ちになり、口に入れた雑炊の味もわからなくなる。
本当は傍にいたい。
誰よりも…
それでも脳裏に浮かぶのは、矢田が家庭を持ち幸せに暮らしている姿だ。
今はこうして斗羽に興味を示してくれてはいるが、いずれきっと後悔する時がくる。
結婚して子どもがほしい、普通の家族を作りたい。
そうなった時、斗羽の存在は必ず邪魔になるはずだ。
矢田は優しいから、きっとそういうのを全部諦めてでも斗羽に付き合ってくれるだろう。
だけど自分はそんなお荷物にはなりたくない。
彼が何かを妥協して斗羽を選ぶなんて、そんな事決してしてほしくない。
だから中西が結婚相手の候補として尾野を紹介してくれた今だからこそ、その決断をしなければいけないのだ。
たとえ辛くても、少しの間我慢すればいい。
我慢する事にはなれているから。
きっと矢田だって尾野や他の女性と結婚して子どもが産まれた時、斗羽がいなくてよかったと胸を撫で下ろす時がくる。
でもそれをそのまま伝えるのは違うような気がして、何と言っていいかわからず口ごもっていると再び矢田が口を開いた。
「やっぱりあいつがいいのか」
「……え………」
「俺よりも音成がいいのか」
矢田の表情は見えないがその背中が僅かに震えている気がした。
「………ちがっ………」
違うと言いかけて咄嗟に口をつぐんだ。
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