[一]

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 通学の途中、由岐(ゆき)信豪(しんごう)は、同級生の佐久良(さくら)匡浩(ただひろ)と交わした昨日のやりとりを思い出していた。 「ああ、それ、わかるわ、宿題やったはずなのに、ノートが真っ白だった時は、ここにいる俺は俺じゃなない!っていうヤツ」 「いや、そういうのじゃなくて」  佐久良がふざけているのは分かるが、それ以前に佐久良に聞かれるぐらいの声が出たのは失敗だった。  誰かの同意が欲しいとかではなく、何となく落ち着かない気分がここ数日、続いている。度の合わない眼鏡で本を読んだ時、制服が背の高い誰かのと入れ替わっていた時、学食のラーメンが予告もなく味を変えていた時、あれ、変だな、いつもと違うなと思う、そんな感覚の延長で、信豪は、僕は本当に由岐信豪なのか?と考えている。
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