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「いや、お前は由岐だ、由岐信豪だ、お前が由岐信豪なんだ、由岐信豪はお前だ・・・・・・」
鏡に向かって念を押すように語りかける。知らない人が見ていたら変に思うかも知れない。
「うすッ、朝っぱらから何ぼやいてんの」
いきなり鏡に割り込んできたのは、佐久良の顔だった。電車から降りた時に信豪を見かけて、声を掛けようとしたのだとか。すると信豪が小走りになってトイレに駆け込んだものだから、付いてきたのだそうだ。
闖入者の顔を見て、信豪は、それが佐久良であることが一瞬で分かった。一度、視線を切って改めて見直しても、一分の疑いも生じない。
「まだ昨日の続きやってんのか、俺は俺でないっとかいうヤツ」
佐久良は、水で手を濡らして髪を撫でつけている。ポマードかなにかを付けているつもりなのだろうが、そんなに気を遣わないといけないほどの長髪でもない。自然体で放っておくだけで十分なのに、やたら気に掛けている。
「まあ、そういうことじゃないけどな」
いじられるのも嫌なので適当に受け流したつもりだったが、意外なことに佐久良の方がこだわりを見せた。
「千都留に聞いたんだけど、信豪が昨日言ってたの、病気かも知れないんだってさ」
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