[第一部 暴走の草薙] 序

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[第一部 暴走の草薙] 序

 なだらかな山脈ではあったが、外敵から国を守る良い砦となっており、そこはよく栄えていた。  オオヤマツミの国は穏やかであり、民は農耕に汗を流し、喜んで捧げものを王に運んだ。徴兵された男たちは国を守る訓練に日々いそしんでいたが、この戦乱の中でこの国だけは長年の平和を保てており、どこかゆったりと構えた部分があった。  冬は雪深かったが、夏の間に蓄えたものが豊富なので、飢えや凍える人はほとんどいない。  子供たちは雪で遊び、むしろこの最も厳しい季節を楽しむほどだった。  待ち焦がれた春、鮮やかで鋭い夏の日差し、秋の温もりは、宝玉のように国を彩った。未だ染料の発達していない時代だったから、それらの美しい有様を衣服に表すすべはなかったが、染め物師たちは誰もがこの国の素晴らしい四季、豊かな色彩をぜひとも華麗な布地にしてみたいものだと考えるのだった。  戦いで命を落とすことがあるなど遠い地のはなしであり、人々は何の心配もなく豊かな四季を過ごしていた。  山で護られた世界、それがオオヤマツミだったのである。  このオオヤマツミの国主は長寿であり、ほとんど永遠ではないのかと思われている。     
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