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彼の両親は、今は既にこの葦原中国にはいない。
母親は黄泉の国の主であり、父親は高天原にてこの地を睥睨し今も見守っているのだった。
多くのきょうだいが彼にはいたが、あまりにも多いのですべて仲良くしているわけでもない。便りのあるものと、音信不通のものがあるが、いずれにしろこの国は山で護られているために平和であったがほぼ世界と遮断された状態だったので、あらゆる争い事からは離れていることができたのである。
長く栄えたオオヤマツミであるが、一つの悩みがあった。
姫しかいないのである。王子が生まれないまま至っていた。
もちろん、私生児は他にもあるが、そこにも男の子は見当たらない。
そのため、姫を相応しい相手に嫁がせ、国の繁栄につなげるか、少なくとも国の不利にならぬよう、このまま民の安全が計られるよう、相手を選ばねばならないのである。
姫は二人おり、サクヤとイワナガと呼んだ。
誰もが目を見張り、その姿を見ただけで幸せな気持ちになるほどの美貌、無邪気で生まれたての子供のようにけがれない性質のサクヤは、誰からも愛された。この国が生んだ至上の宝であると歌詠みは讃えた。
一方、イワナガは余りにも見劣りがした。
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