その八 白蛇

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 オオヤマツミの結界は解かれ、今、この地は開け放たれている。  結界を維持するだけの力が、もはや王には残っていないのだろう。  5名の部下を連れ、馬で山道を越えていても、もう、つうんとした頭痛を感じることはない。偽の高天原を作り上げていた力が薄まっている。  晴れ渡る空から差し込む日の光は、伸び盛りの若木の葉を透かし、緑色の輝きを落としている。  風が吹くと樹々は揺れ、足元に落ちる緑の影も揺れるのだった。  一見、なんら変わった様子はない。  美しく清浄なオオヤマツミの世界である。  だが、王の護りの力が弱まっている。恐らく山頂にある、黄金の結界も消えているのではないだろうか。  (イワナガ姫がこの地を去ったから、王の命に期限ができたのだろうな……)  サクヤの清らかさ、華やかさ、美しさは健在であるから、この国の清浄さは失われることはない。だが、決定的に、力強さが消えていた。  太い木の根、地を這うつる草を踏み越えながら、オシヒ一行は進む。  馬は楽々とけもの道を上り、後に続く兵たちは黙々と歩いていた。  オシヒたちがこの山を越え、浜に到着するのを、一艘の船が待っているのである。  ニニギがオオヤマツミの王に命じて作らせた船だ。     
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