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真っ赤に燃え盛る空と黒い大地が交わる場所に、その人は髪をなびかせていた。立っているのではない。浮遊しているのである。
イワナガは泣き、更に急いでその懐かしい人の側に駆け寄った。
優しく美しい顔をした女の人は細い腕を差し伸べ、イワナガの手を取った。
その瞬間、イワナガは自分の足元に深く暗い穴が開くのを知った。
手を取られたままイワナガは地の下の国に落ちた。
体を引き寄せられ、豊かな胸に抱きしめられた時、イワナガは時の逆流を感じた。
痩せてひょろひょろと育った手足は縮み、やわらかくむっちりとした幼女のそれになる。
ずっと欲しかった。
最もそれを必要としていたあの時に、イワナガは戻っていた。
抱きしめられ、落ちて行きながら、イワナガは微笑んだ。
「お母さん……」
イワナガの背中に回った細い腕に力がこもった。
たとえその腕が、腐敗し、ただれ、虫が湧き、骨が見えていたとしても、イワナガにとっては美しく優しい母の腕だった。
「お母さん、お母さん、お母さん、お母さん」
……。
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