その二 欲し

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 真っ赤に燃え盛る空と黒い大地が交わる場所に、その人は髪をなびかせていた。立っているのではない。浮遊しているのである。  イワナガは泣き、更に急いでその懐かしい人の側に駆け寄った。  優しく美しい顔をした女の人は細い腕を差し伸べ、イワナガの手を取った。  その瞬間、イワナガは自分の足元に深く暗い穴が開くのを知った。  手を取られたままイワナガは地の下の国に落ちた。  体を引き寄せられ、豊かな胸に抱きしめられた時、イワナガは時の逆流を感じた。  痩せてひょろひょろと育った手足は縮み、やわらかくむっちりとした幼女のそれになる。  ずっと欲しかった。  最もそれを必要としていたあの時に、イワナガは戻っていた。  抱きしめられ、落ちて行きながら、イワナガは微笑んだ。  「お母さん……」  イワナガの背中に回った細い腕に力がこもった。  たとえその腕が、腐敗し、ただれ、虫が湧き、骨が見えていたとしても、イワナガにとっては美しく優しい母の腕だった。  「お母さん、お母さん、お母さん、お母さん」  ……。     
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