その二 欲し

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 「イワナガ姫は、オオヤマツミの二人の姫の上の姫でして」  言葉が途切れ、ごくんと唾を飲み下した。  フツは必死である。無論、イワナガの行方など知る由もないのだが、何でもよい、イワナガについて知っていることを喋れば、クマソタケルの機嫌が取れるに違いないと思った。  「下の姫はサクヤ姫といい、それは清らかで美しく、見る人すべてを魅了される方なのです」  サクヤ姫が笑顔になると花はぱっと開き、あたりには良い香りが漂う。周囲を幸せにするために生まれてきたような、誰からも愛されるような、そんな素晴らしい姫なのです。  ……。  フツが引っ張られて来たところは、クマソタケルの宮の庭である。タケルは縁に腰掛けて、土の上にひざまずいているフツを見下ろしていた。  彫の深い顔だちは、ヤマトの人間の造りとは違う。  オオヤマツミでは見られない容姿である。赤い髪といい、まるで異なっている。  だが、鍛え抜かれた体つきは簡素な衣の上からでも明らかだった。  今タケルは、あの奇怪なイノシシの毛皮を脱ぎ、普段の衣を纏っている。ごく単純なつくりの衣は、荒くおられた布を縫い合わせ、帯で結んだだけのものである。  眩しい陽光は肌を焼くようであり、庭の樹木は日を受けてつやつやと輝いていた。     
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