その二 欲し

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 (粗末というより、この風土に見合う衣や建屋で暮らしているというべきか)  フツの目を通してクマソの様子を探っているオシヒは、人々の衣や宮の建物の造りについて、そう評した。  ヤマトよりも技術が劣っているわけでもなさそうだ。  一方、竦み上がったフツはこざかしい考えが走るに任せ、ぺらぺらと喋った。  「サクヤ姫の美しさは一度見られたら忘れることなどできますまい」  ……。  ふん、と、タケルは鼻を鳴らした。  まるで興味がなさそうな様子である。  慌ててフツは話題を変えた。サクヤ姫についての話に飛びついてもらえなかったことが意外であったが、蛮族の王の嗜好は理解できないものとして無理矢理に納得した。  (どういうわけで、あんなイワナガの事を知りたいのか)  フツは一瞬思ったが、深く考えもせず、またぺらぺらと喋り出したのである。  「それに対し、イワナガ姫はひどく醜く、また、ひどく穢れていたため、誰からも見向きもされませんでした」  できるだけ面白おかしく言わなければ、と、フツは思いこんでいる。  フツの心の動きを読み取って、オシヒは頭を抱えたくなった。  (よせばいいのに……馬鹿なやつだ)  オシヒには感じ取られたのであるが、クマソの王は、イワナガを決して疎んでいないのだった。     
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