その三 花舞

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その三 花舞

 こうん、こうん。  葬儀の鐘が幾重も連なり、終わることなく続いてゆく。  空は橙と陰った黄色で彩られており、日差しがなにかに遮られ、直接この地を照らすことはないようだった。  こうん、こうん。  すでにこの鐘の音は空気と同じようなものである。次第に気にならなくなってゆく。  イワナガは、白い腕に抱きかかえられて地の底の国に落ちたのだった。  もわもわと煙があちこちに流れており、匂いが立ち込めていた。  心寂しく、背中が寒くなるような独特の匂い。高天原人やオオヤマツミの人間は、それを穢れの匂いだと言うのだった。  (穢れの匂いに満ちているけれど)  豊満な胸に顔をうずめ、目を閉じながらイワナガは思う。  (これが嫌な匂いだと思う事が、わたしにはできない……)  焼け付く白い浜の砂。  てらてらと深緑の葉が日光を受け、大ぶりな花を咲かせる茂み。  生き物たちは昼も夜も活動的である。命を喰らいながら生き続ける生の営みが、えんえんと繰り返される深い森。  人は、生き物たちと同様に、自然の恵みの中で命を繋いでいるのだ。  あの森の香りは甘美ですらあった。     
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