その三 花舞

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 生命の力に漲った気配であったのだが――不思議なことに――この、穢れの国の匂いにどこか似ていた。  (クマソの香りに通じるものがある、この国は)  白い腕に抱えられ、愛しむように髪を撫でつけられながら、イワナガは薄く目を開いた。  豊かで柔らかな胸の間で、幼子の姿に戻ったイワナガは護られていた。  小さな女の子であるイワナガ。  「さあ、もう泣かなくていいのよ」  穏やかで懐かしい声が耳元でささやいて、頭を撫でつけてくれる。  イワナガは自分がべたべたに泣いていることに気づいたのだった。  ああーん……うわああん……かあさん、とうさん、ああーん、うわああん……。  ……。  オオヤマツミの奥宮の部屋に閉じ込められて、扉がぴったり閉められて、日が差さない中で泣いていた。  いつだっただろう、何があったのだろう――思い出せない。  もしかしたら、毎日そうだったのかもしれない。  太い柱に小さい体をもたせ掛けて、ぺたんと床にお尻をついて、声を限りに泣き続けたのだった。  「ああ、うるさい、あの声を聴くと気分が悪くなるのよ」  「ほんとにねえ、子守りの子も、あの泣き声にぞっとして、身投げまでしたじゃないか」  庭先で声高に喋り合う女たちの声が聞こえていた。     
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