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生命の力に漲った気配であったのだが――不思議なことに――この、穢れの国の匂いにどこか似ていた。
(クマソの香りに通じるものがある、この国は)
白い腕に抱えられ、愛しむように髪を撫でつけられながら、イワナガは薄く目を開いた。
豊かで柔らかな胸の間で、幼子の姿に戻ったイワナガは護られていた。
小さな女の子であるイワナガ。
「さあ、もう泣かなくていいのよ」
穏やかで懐かしい声が耳元でささやいて、頭を撫でつけてくれる。
イワナガは自分がべたべたに泣いていることに気づいたのだった。
ああーん……うわああん……かあさん、とうさん、ああーん、うわああん……。
……。
オオヤマツミの奥宮の部屋に閉じ込められて、扉がぴったり閉められて、日が差さない中で泣いていた。
いつだっただろう、何があったのだろう――思い出せない。
もしかしたら、毎日そうだったのかもしれない。
太い柱に小さい体をもたせ掛けて、ぺたんと床にお尻をついて、声を限りに泣き続けたのだった。
「ああ、うるさい、あの声を聴くと気分が悪くなるのよ」
「ほんとにねえ、子守りの子も、あの泣き声にぞっとして、身投げまでしたじゃないか」
庭先で声高に喋り合う女たちの声が聞こえていた。
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