39人が本棚に入れています
本棚に追加
幼いイワナガにはその言葉の意味はよく分からないが、自分に対し好意的ではない空気は感じたのだった。
聞きたくない余りに、さらに声を高くして泣いた。
寂しい寂しい、抱きしめて、頭を撫でて。ひとりは嫌。ひとりは嫌……。
むきだしの素足、傷だらけの腕。
冷たい床に触れるから、いつでも足は冷たかった。
ごはんは運ばれるけれど、一人で食べて寝るだけ。
誰からも顧みられない。風邪をひいて熱を出しても、誰も見に来てはくれなかった。
……。
「サクヤ様がお咳をしておられるんですって」
「今朝からだそうよ」
「すぐに薬師を呼びにやられたそうだよ」
「ああ、心配だねえ。サクヤ様はか弱い方だから……」
花のように美しく儚いサクヤ。
微笑めば花がぱっと開くように、人々に喜びが伝わる。
薄桃色、薄紅、黄玉色、蜜柑の実の色……あらゆる華やかな色彩が空に溶け、ふわっと包み込む様に広がるのだ。
だけどサクヤが悲しめば花はつぼみ、人々は項垂れる。
皆、サクヤには幸せでいてもらいたいのだった。
サクヤの幸せは皆の幸せである。そしてその幸せは華やかで美しい分、いつ散るかわからない儚さを秘めているのだった。
最初のコメントを投稿しよう!