その三 花舞

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 幼いイワナガにはその言葉の意味はよく分からないが、自分に対し好意的ではない空気は感じたのだった。  聞きたくない余りに、さらに声を高くして泣いた。  寂しい寂しい、抱きしめて、頭を撫でて。ひとりは嫌。ひとりは嫌……。  むきだしの素足、傷だらけの腕。  冷たい床に触れるから、いつでも足は冷たかった。  ごはんは運ばれるけれど、一人で食べて寝るだけ。  誰からも顧みられない。風邪をひいて熱を出しても、誰も見に来てはくれなかった。  ……。  「サクヤ様がお咳をしておられるんですって」  「今朝からだそうよ」  「すぐに薬師を呼びにやられたそうだよ」  「ああ、心配だねえ。サクヤ様はか弱い方だから……」  花のように美しく儚いサクヤ。  微笑めば花がぱっと開くように、人々に喜びが伝わる。  薄桃色、薄紅、黄玉色、蜜柑の実の色……あらゆる華やかな色彩が空に溶け、ふわっと包み込む様に広がるのだ。  だけどサクヤが悲しめば花はつぼみ、人々は項垂れる。  皆、サクヤには幸せでいてもらいたいのだった。  サクヤの幸せは皆の幸せである。そしてその幸せは華やかで美しい分、いつ散るかわからない儚さを秘めているのだった。     
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