その三 花舞

5/14
前へ
/724ページ
次へ
 ぐろぐろとした溶岩の中には無数の命が溶け込んでおり、その中にいれば、決して一人きりではないのである。  いろいろな命の終焉があり、無数の生涯があるのだが、全ての命は同等なのだった。  その命の吹き溜まりの中で眠りながら、イワナガは見た。  (これが葦原中国……)  不思議な形をした大地が紺碧の海に浮かんでおり、葦原中国は真に頼りない様子だ。  ただでさえ小さな葦原中国の中で、今も様々な場所で争い事が起きている。  オオヤマツミはその中で、黄金の結界に護られているからすぐに分かった。そこだけは別世界だったのである。  オオヤマツミ以外の場所では、無残に命を刈り取られた人々が無念の情を抱いて、うろうろとさ迷っていた。  戦いで負けた国の身分の高い人々や、戦場で命を落とした兵士の他に、巻き込まれて死んだ庶民もたくさんいる。  こうん、こうん。  焼けこげた村の跡。  踏み荒らされた田畑。  略奪された民家の様子。  もう光を失い、虚ろに開かれたまま閉じることのないまなざし。  かあさん、かあさんと号泣しながら焼け野原に座り込む小さな裸の子供の姿。  あちこちに骸が重なり、焼き払われた宮からは未だ黒い煙が上がる。  しいんとした集落を、鎧を纏った一団が馬にまたがり、凱旋する。勝った、戦に勝った、ここは今日から我々の国。     
/724ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加