その三 花舞

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 優しい指がイワナガの髪を撫でている――からだは溶岩の中に溶けて消えた様に思っていたが、慈しみに満ちた指の感触は、眠りの中でもはっきりと伝わっていた。  オオヤマツミの奥宮では、たった今戻ったオシヒとニニギが対面していた。  よく晴れた午後は平和そのものであり、庭には様々な花が咲き乱れている。さらさらと小川が流れており、ゆるく風が吹く度に、蜜柑の木が葉を揺らすのだった。  開け放した縁から外光が入り、柱が影を落としている。  ニニギは報告を受け、オシヒをねぎらった。ツクメは縁で立膝をしており、いつでも話に参加できるよう侍っている。  「モモソ、か」  面白そうにニニギは言い、胡坐をかいた膝を軽く叩いた。  高天原が葦原中国に君臨する以前から、この地には神がいる。古の神であり、高天原とは全くゆかりのないものたちだ。  ほぼ絶滅しているのだが、クマソの地には未だ生きながらえているらしい。  白い大蛇が護るクマソ。  その結界である、海の大渦をくぐらなくてはクマソにたどり着くことすらできないのだ。  攻め入ることは、不可能である。  モモソ神と天孫であるニニギが、神の次元で会いまみえ、話し合うことが叶えば、その結界を解いてもらうことができるかもしれない。  ニニギは殺戮や略奪目的でクマソに攻め入るのではないのだ。  ただ、この葦原中国をひとつに纏め、統治したい……。     
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