その三 花舞

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 ニニギは衣の内側で揺れる勾玉を弄んでいた。  衣の上から、指でころころと。  サクヤは日の差す部屋で、侍女たちと衣を広げている最中だった。  衣替えの時期だからだ。夏の軽やかな薄絹を引っ張り出し、吟味し、日のよく当たる縁に出して虫干しするのだ。  薄紅、薄桃、蜜柑の色の衣が床に乱れており、侍女たちが楽しそうに、衣を縁で干しては次の衣を取り換えている。  この色は本当に綺麗、姫様によく似合いますこと。  あら、こっちの色の方がお似合いになるに違いないわ。  ……。  衣を広げる作業の傍ら、髪飾りを取り出しては床に並べているサクヤである。  木箱から細い指で取り出される飾りは、どれもオオヤマツミの職人が丹精込めて作り上げた品だ。  宝玉が嵌め込まれたもの。  小鳥や花が掘り出された繊細な造りのもの。  日を受けて輝く金と銀。  しゃりんしゃりんと澄んだ音を立てる飾り物……。  ニニギは部屋の入り口で、光差す光景を眺めていたが、やがてゆっくりと足を踏み入れた。  気配に気づいた侍女たちが顔をあげ、はっとした。いそいそと広げた品を部屋の隅に片づけ、首を垂れ、退室した。  数人の侍女が開け放たれた廊下を歩き去ってゆく気配がする。     
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