その三 花舞

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 幸せ、なんて幸せなの。嬉しい、嬉しい、嬉しい……。  愛する人から愛を告げられ、全身でそれを感じることは、なんて素晴らしいんだろう。  歓びの気持ちはなんて美しいんだろう。  きらきらと光に満ちていて、喜びしかこの世にない。  無数の花が次々と開き、栄えるように、わたしは幸せだわ。  幸福に満ちた黄金色のサクヤの気は、奥宮の部屋から外へ躍り出た。  やがてそれは、素晴らしい香りと舞い散る花びらのような甘やかさを含みながら、どんどん広がっていったのである。  オオヤマツミの国全体にあでやかな花のような歓びが伝わった。  ほんの数日前に夫を亡くした妻が嘆いているうちにも、その華やかな気は伝わった。  泣いていた女は、悲しみが薄れ、この世の喜びに目を向ける気持ちを取り戻し始める。  (そんな穢れた涙は要らないの。この世はもっと綺麗で楽しいことに満ちているのよ……)  悲しみや憎しみは穢れだ。  穢れは影を潜める。清らかな喜びだけを見るのだ。  黄金の花の気配はオオヤマツミの上空を軽々と越え、天空を舞い遊ぶように葦原中国全土に広がっていった。  毎日。  毎晩。  ニニギに求められる度にサクヤの喜びと幸せは高まるのだ。       
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