その三 花舞

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 「ああ、なんて素敵。花が舞い裂くように、みんな喜びと愛に満たされるといい」  美しいもので、葦原中国が満たされればいい。  ……。  一方、黄泉の国の底では、溶岩の眠りの中で、イワナガは葦原中国の有様を淡々と眺めつづけていたのである。  サクヤの歓喜が光り輝きながら全土を覆う様子を、イワナガは見ていた。  あちこちであでやかな花が咲くように、無数の恋が始まり、芸術家はより美しいものを作り出そうと腕を磨いた。  悲しみに打ちひしがれていた人々は、すぐ側にある喜びに気づいた。  華やかで軽やかな気が、オオヤマツミを中心に、薄紅色の喜びを煌めかせながらじわじわと広がっていったのである。  これがサクヤの力。  高天原から伝わった、生まれながらの定めの力だ。     
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