その三 花舞

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 だが、イワナガの心は、咲き誇る花々を愛でたり、なんとなく楽しい気持ちになって心の悲しみを忘れてゆく人々から離れていた。  ああーん。あああーん……。  かあさん、かあさん、かあさん、怖い、怖いよ。  ぶすぶすと未だに焼け跡から煙が立ち上る、戦の跡では。  母を失った裸の幼い子が草の中で動けなくなって泣き続けている。  ぐう、ぐるるる、うう――里に下りて来た狼たちが涎を滴らせながら、柔らかな子供を凝視し、囲んでいた。  ああん、怖いよ、かあさん、かあさん。  どこにいったの、寒い、怖い、かあさん、かあさん……。    (喜びに満ちている人々と救われない人々と)  目を閉じ、優しい指で髪を梳かれながら、イワナガは淡々と有様を見届けた。  (その差を説明することは、誰にもできまい)     
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